蛍

遠くから

見える

光り

遠い

歩いていく

その都度

遠ざかる

いったい

なんだろうと

思いながら

歩く自分が

そこにある


 かくれんぼ

雲の向こうに

見えたのは

果てしない

希望だったか

疲れ切った

夕暮れ

蜘蛛の巣が

揺れている

 

遠くで

蝉が鳴く

優しい風の

反対側に隠れたあなたは

もういなくて

僕は一人途方に暮れる


 己

自分の

体を

見つけ

壁に

ピンで刺してみる

本当に

自分の体

どこか違うような

でも部屋にある

ピンを抜いて

手で下げてみる

やっぱり

自分の体

一度

洗濯したいが

できそうになく

明日も

これで

社会に出る


 書き続ける

影が

通り過ぎる

言葉が

影を失い

カラスがついばんでいく

ベッドの上何もなく

雑踏は

遠い

記憶の旅人が

のどを潤していく

通り過ぎる

僕は

何もできず

点滴からの

活字で

原稿を埋めていく

掲載されない

原稿が

埋まっていく


 シミ

遠い

ゆらぎ

真夜中

一人の

部屋の中

鼻腔から

冷たい気が

入ってくる

天井を見ると

シミが

動いている

朝は遠く

眠れない

体は

疲労を語って

ベッドで

じっと

動けない

朝は

遠い

 疲労

遠くで

声が聞こえる

遠いはずの

水平線が

揺れている

 

疲れたのか

 

自分でもわからず

書き続けるしかない

病気の手足を

切り離して

どぶに捨てる

 

体が

床にめり込んでいく

感覚

 

 

胃袋を

誰かが握りつぶす

黒い胃液を

飛び越えていく

 


 笑い声

気が付くと

白い

殺風景な

天井が見える

重い体

息が荒い

思い出せない

記憶の真ん中で

もがいている

自分の中の自分

耳には

冷血な笑い声

梵鐘

なんとか

腕を見ると

透明な管が

食い込み

笑っている

十年以上前に

死んだはずの

祖父と繋がり

ベッドの横には

指しかけの碁盤が置いてある

ここは何処だろうと思いながら

次の手を考える

浮かばない

言葉も忘れてしまって

ドアが開いて

白衣が

無言で脈を取り始める

夢なのか

わからずに

体は重い

 


 幻

聞こえる

声の向こう側

懐かしい

顔が笑っている

窓の向こう側

動かない体

時間は止まったままで

遠い日

駆け回った日が

遠くに

映っている

モノトーンの

自分が

思いっ切り

笑っている

ベッドから

離れる衝動

耐え切れず

手を伸ばすと

影はすっと消えて

真っ暗な夜が広がっていく


 海で

旅に出る

記憶はあいまいで

激しい大気の

流れの中で

もがく自分は

誰も教えてくれない

どこまで

この体を

抜け出せる

大海原で

水平線に

取り囲まれて

浮かんでいる体

遠い

願いは

雲になり

風に流れる

記憶は

海水にとけだし

体を浮かせる


 ハプニング

そわそわ座っている            

舞台から一番遠い席

防音の無機質な壁に囲まれ

かすかに曲が流れ

ひそひそ声は

漣のように会場を満たしている

 

突然、光りの波

イントロがフラッシュし

漣が凪ぎ

彼女がスポットライトの中に生まれる

オアシスの歌声が会場を満たしていく

時計が壊れる

 

彼女が

舞台を降りて

客席に飛び出してくる

漣が生垣に変わる

移動するたび

生垣も移動する

姿は見えず気配(オーラ)を感じる

 

近付いてくる

後ろを通る

突然細い腕が

首にひんやりとまわる

一瞬の出来事

言葉をなくす

話たいのに話せない

 

腕の冷たさ

残し生垣に消えていく

後ろ姿を見送る


 影

影は

まだくっきり

誰が言ったか

記憶は

影にたまっていく

老いると

影は

膨れ上がり

重みをまし

引きずる体は

重くなり

動きが鈍る

日差しが

強ければ

強いほど

呼吸が

荒くなる

行き過ぎた

目的に

足は

硬直している


 真夜中に

どこまで行こうか

夜に

かけていく

遠くで

稲妻が

ほとばしる

閉じられた

本のページは

またあけられて

動こうとしない

夜はどんどん

深まっていく

 


 昔の自分から

どこからかやってきた

旅人は

誰だっただろう

古くからの

友人の足音にも似て

真夜中

目をさまし

へんな

音を

聞き付ける

カチカチ

カ・チ・カ・チ

繰り返される

表に出ても

何もなく

どこに行ってしまったのか

音の正体

思い出す

あの君と一緒に

帰った坂道の途中

君が手をぎゅって

したから

僕はまだ

ここにいたりする

どんな遠くからでも

見ている

君には

笑っていてほしいから

我に返って

夜道を見回す

誰もいない

諦めて

眠りに入る

音はもう聞こえない


 ノイズの中に

ゆらいでいる

コトバ

遠い

友の声は

日常という

ノイズに

もう

聞こえはしない

気持よく

風が

微笑んでいく

日常の

会話に

埋もれていく

友との会話

遠い

過去の

物語

砂漠に埋もれた

遺跡のように

まだ新しい

破れて切り捨てられた

小腸をつまんでいる

自分が見える

 


 あなたは知らないけれど

その瞳には

何が映っているの

あなたと話してみたい

そっと

心の隙間を

覗いてみれば

真っ白い

空間が

見えた気がした

入りたい衝動を

ぐっと我慢して

そっと手を放すと

取り残された

気持になった

必死に

声を手繰り寄せ

ときどき

そばに寄り添って

 


 イメージ散歩

会いたいと思う

気持に逆らえなくて

微笑んで

許してしまう

海馬に

またがって

放してくれない

声が

聞きたくて

また

来てしまったよ

海風を

感じながら

座っている

ゆっくりと

雲が流れる

旅は

続いていく

凝り固まった

日常を抜け出して

遠い

雲の螺旋階段

上っていく

上に何があるだろう


 大掃除

             

掃除する

手を口から入れて

内臓を取り出して大掃除

肺の煤けをふき取って

胃袋のほころびを縫い直して

腸の(ひだ)のホコリを掃いて

机に並べていく

鼓膜と皮膚を水洗いして

ベランダに干して

目玉は片方ずつはたきではたく

最後に

脳を取り出して

黒い部分をナイフでえぐりとる

骨だけの体を

見渡して

散歩に出かける

 夢

 

 

 

白紙は

凍りついて

文字がかけない

そんな

夢を

見た

何を

意味するのか

 

どこから

聞こえる声に

汗を流し

追いかける

 

走って

走って

どこまでも

 生まれ変わる

脳の

コンセントが

脊髄に

差し込まれる

心臓は

チタンの

ポンプ

 

血管は

ゴム

 

肝臓は

コーヒーメーカー

 

肺は

エヤーポンプ

 

皮膚は

未知の紙で

生まれ変わる

 

地球から

離れて

星の上で

生まれ変わる

 キーホルダー

机の片隅

古いスタンド

君と

おそろいの

キーホルダーが

ぶら下がる

君に

つながる

かぎ

 

一年以上

ぶら下がって

見守る

 

ある日

音もなく

落ちる

何もなく

落ちる

鎖が口をあけただけ

何気なく

つなげる

 

つながらなかった

想い

 

 すいか

ころころ

ころころ

ちきゅうが

ころがる

たいようをまわる

おしごとを

わすれた

ちきゅうさん

どこに

おでかけなのかしら

 

ころころ

ころころ

テーブルのうえに

とまって

うごかない

ほうちょうで

ザックリ

わって

マグマに

かぶりつく

 

あまい

なみが

したを

あらう

 ザムザの夢

男は

歩いていた

雨が

ふってきた

ビルは

セメントの汗を

流し始める

空は

大きな

毒虫の背に

覆われて

地面から

死体から立ち込める

刺激臭が立ち込める

男は

いつのまにか

消えていく

 記憶

地面に

深く

突き刺さり

血が乾いた

牙は

遠い

夢を

吐き続ける

瞳は

流星群に

吸い込まれて

マグマの

津波で

消し去る

 

「はじめ」に

であった頃に

押し戻されて

白いうなじを

抱きしめたい

時間さえ

止まってくれたら

君の海馬に

もぐりこんで

ファイルに

上書きしたい

これまでは

消えていく

 勇気だして

伝えきれない

この気持ち

 

体内を抜け出して

夜になると

這い出して

部屋いっぱい

 

今は

茜色で

心地よく

 

言ってしまえば

紫の

夕暮れで

疲れ切ってしまうから

 

まだ

伝えられない

この気持ち


 声を探して

声が

聞こえる

雪のように

とけてしまう

声を

探して

ただ

夜に

飲み込まれた道を

歩き続ける

詩を

書き続ける

声は

薄れ

近付き

道を

探して

詩を

書き続ける

声を

実感するまで

 癒される

記憶は

蘇る

声が

聞こえる

傷ついた

心は

透明に

流血している

誰にも

自分でも

気付かれないまま

傷は

化膿し

蛆虫が

地面に落ちて

つぶれる音が

聞こえる

声が聞きたい

話していると

傷は

見る見る

閉じて

流血が

とまる